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東京高等裁判所 平成8年(行ケ)117号 判決

東京都江東区木場1丁目5番1号

原告

株式会社フジクラ

同代表者代表取締役

田中重信

同訴訟代理人弁理士

来住洋三

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

同指定代理人

森田信一

及川泰嘉

小池隆

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が平成3年審判第22828号事件について平成8年2月29日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和59年5月10日、名称を「ケーブル線路」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願(特願昭59-93611号)したが、平成3年10月3日に拒絶査定を受けたので、同年11月28日に審判を請求し、平成3年審判第22828号事件として審理された結果、平成6年3月9日に出願公告(特公平6-18089号)されたが、特許異議の申立があり、平成8年2月29日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年5月22日原告に送達された。

2  本願発明の要旨

ケーブルコアの外側の撚合わせ間隙にスパイラル状に、光ファイバ用中空パイプが、内部に何も挿入されていない状態で布設されていることを特徴とする、ケーブル線路。(別紙図面1参照)

3  審決の理由の要点

(1)  本願発明の要旨は前項記載のとおりである。

(2)  引用例の記載

〈1〉(a) 特開昭58-189603号公報(以下「第1引用例」という。)には、その第2図(別紙図面2参照)を参照して、複数の「プラスチックチューブ15」と複数のプラスチックで絶縁された「電気導体18」とが、中央の「強化部材11」の周りにヘリカル状に撚られてなる「光ケーブル」の記載が認められる。

(b) そして、上記「プラスチックチューブ15」は「電気導体18」の外側の撚合わせた間隙にヘリカル状に設けられ、プラスチックチューブ15の一部には「光ファイバ16」が収納され、残りの一部には何も収納されていない「空」の状態であるものと認められる。

〈2〉 実願昭55-115759号〔実開昭57-40212号〕のマイクロフィルム(以下「第2引用例」という。)には、電気ケーブルと、複数の光ファイバー心線を束ねた光ケーブルとを並設したケーブルにおいて、ゴムホース状体(ゴム製中空パイプ)を含むキャプタイヤケーブル製造後、ゴムホース状体に光ケーブルを挿入する技術、及び光ケーブル断線時に光ケーブルを交換できるように、ゴムホース状体(ゴム製中空パイプ)に着脱可能に、光ケーブルを挿入する技術の記載が認められる。

〈3〉 特開昭54-153042号公報(以下「第3引用例」という。)には、布設後、光ファイバを付加したり、取り替えたりするために、光ファイバ通線用パイプに、予め製造時に線条をいれておき、回線需要の増加に応じて線条を光ファイバに置換することが記載されている。

〈4〉 以上の第2、第3引用例には、要するに、光ケーブル技術分野において、布設後の故障に対応するために、光ファイバの付加や取り替えに備えて、着脱可能に、光ファイバ用中空パイプに光ケーブルを挿入する技術の記載が認められる。

(3)  本願発明と第1引用例記載の発明との対比

本願発明の「ケーブルコア」「スパイラル状」「光ファイバ用中空パイプ」は、それぞれ第1引用例記載の発明の「電気導体18」「ヘリカル状に」「プラスチックチューブ15」と同義ないし等価であり、本願発明の「ケーブル線路」は、第1引用例記載の発明の「光ケーブル」を包摂するから、両者は、「ケーブルコアの外側の撚合わせ間隙にスパイラル状に、光ファイバ用中空パイプが、内部に何も挿入されてない状態であることを特徴とするケーブル線路」である点で一致し、光ファイバ用中空パイプを、内部に何も挿入されていない状態、すなわち「空」の状態にしておくことの目的は、本願発明では、布設後の光ファイバの追加や取り替えに備えておくためであるのに対して、第1引用例では、その点が記載されていない点で相違している。

(4)  容易性の検討

光ケーブル技術分野において、布設後の光ファイバの付加や取り替えに備えて、着脱可能に、光ファイバ用中空パイプに光ケーブルを挿入する技術は第2引用例、第3引用例に記載の如く本件出願前周知であったと認められるので、第1引用例記載の「光ケーブル」において、光ファイバが挿通自在で「空」の状態の「プラスチックチューブ15」を、布設後に光ケーブルが必要になったときに備えるためのものとして布設しておくことは当業者が容易に想到できたものと認められる。

したがって、本願発明は、第1引用例記載の発明に第2引用例、第3引用例に記載の技術を適用して、当業者が容易に発明をすることができたものであると認められる。

(5)  以上のとおりであるので、本願発明は引用例記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

4  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点(1)は認める。同(2)〈1〉(a)は認める。同(2)〈1〉(b)は争う。同(2)〈2〉ないし〈4〉は認める。同(3)のうち、本願発明の「ケーブル線路」が第1引用例記載の発明における「光ケーブル」を包摂することは認めるが、その余は争う。同(4)、(5)は争う。

審決は、本願発明と第1引用例(甲第5号証)記載の発明との相違点を看過し、その相違点についての判断を遺漏した結果、本願発明の進歩性の判断を誤ったものである。

(1)  審決は、本願発明と第1引用例記載の発明とは、「ケーブルコアの外側の撚合わせ間隙にスパイラル状に光ファイバ用中空パイプが、内部に何も挿入されていない状態であることを特徴とするケーブル線路」である点で一致していると認定しているが、両者は、「多数のケーブルコアをスパイラル状に撚合わせたケーブル」である点で一致しているにとどまり、審決は次の(イ)及び(ロ)の相違点を看過している。

(イ)本願発明は、導電性の多数のケーブルコアを同心円上に配置して互いにスパイラル状に撚り合わせた導電ケーブル線路であるのに対して、第1引用例記載のものは、導電性のケーブルコアと光ファイバチューブとスペーサチューブとを同心円上に密に配置し、これらを互いにスパイラル状に撚り合わせた複合ケーブルである点。

(ロ)本願発明は、同心円上に配置され、互いにスパイラル状に撚り合わせた多数の導電性ケーブルコアの外方の撚合わせ間隙に、「光ファイバ用中空パイプ」であって、かつケーブルを布設した状態でも依然として空のままであるパイプを、スパイラル状に上記ケーブルコアに撚り合わされたものである点。

上記の点をさらに敷衍すると、第1引用例の複合ケーブルのプラスチックチューブ15は、光ファイバを内装した状態で撚り合わせたもの、すなわち光ファイバチューブであり、本願発明の光ファイバ用中空パイプは、将来の必要に備えて導電ケーブルに予備的に付加された「空」のチューブであるから、両者はその技術的意義を異にする。また、第1引用例の第2図に図示された、光ファイバを内装していない2本のプラスチックチューブ15は、どのような用途、目的を有するものかは記載されていないから、これは、導電ケーブル4本と光ファイバチューブ2本の間に補完的に付加された、いわばスペーサないしはスペーサと同等のものというほかはないものであって、本願発明の光ファイバ用中空パイプとその技術的意義を異にすることは明らかである。

さらに、本願発明の「ケーブル線路」はいわゆる導電ケーブルであり、複合ケーブルではないから、第1引用例の導電ケーブルと光ケーブルとからなる複合ケーブルとは全く異なるものである。

(2)  第2引用例(甲第6号証)には、導電ケーブル6と光ケーブル10用のホース状体7とを外被8で一体に被覆した複合ケーブルについて、外被8による被覆後に光ファイバ用ホース状体7に光ケーブル10を挿入して内装することが記載され、また、このホース状体7に内装の光ケーブルを新しい光ケーブル10と交換することができるというにすぎない。

また、第3引用例(甲第7号証)には、光ケーブルを布設までの間に光ファイバ用パイプに内装された光ファイバが損傷することを回避すべく、光ケーブル布設後に上記パイプに光ファイバを内装することが記載されている。しかし、これは、光ケーブルについて、光ケーブル布設後に光ファイバを交換し、あるいは光ファイバを内装するという技術思想の範囲内のものであり、仮に布設後に回線増加を目的として光ファイバを通すとしても、それはあくまでも光ケーブルについての明確に予定された光通信回線の増設であり、もともと導電ケーブルである「ケーブル線路」について、将来において光通信回線の布設が必要になる場合に備えて、光ファイバ用パイプを「空」の状態でケーブル線路に付加したものではない。

審決は、前記相違点(イ)及び(ロ)について判断を加えていないが、上記のとおり、第2引用例、第3引用例に記載された事項は、上記各相違点とは全く別異の事項であるから、第2引用例、第3引用例に審決認定の事項が記載されているとしても、これをもって、上記各相違点に係る本願発明の構成につき、当業者において容易に想到できたものとすることはできない。

第3  請求の原因に対する認否及び反論

1  請求の原因1ないし3は認める。同4は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。

2  反論

(1)  第1引用例(甲第5号証)の「ゴムあるいはプラスチック物質からなる複数のチューブと、このチューブのいくつかは、少なくとも1の先に定義された光学束、ならびに/あるいは少なくとも1の独立の光学ファイバをゆるく収納し」(3頁左上欄18行ないし右上欄2行)、「第2図に示される光学チューブの第2の形式の場合、4つのプラスチックチューブ15ならびに4つのプラスチックで絶緑された電気導体18が、中央の強化部材11のまわりにヘリカル状に撚られて、チューブならびに絶縁された導体は互いに互い違いになり・・・2つのチユーブ15のそれぞれにゆるく収納されるのは、単一の光学ファイバ16で、このファイバはエナメル、あるいは他の保護物質からなる外側の被ふく(図示省略)をもつ。」(5頁右上欄6行ないし左下欄2行)との記載からみると、第1引用例の第2図で示される形式のケーブルにおいて、その4つのプラスチックチューブ15は、光学ファイバー収納用のプラスチックチューブであって、その内の2つのプラスチックチューブは光学ファイバが収納されており、残りの2つのプラスチックチューブは、第2図において明示されているように、光学ファイバが収納されていない「空」の状態であることは明らかである。

(2)  本願発明における「光ファイバ用中空パイプ」は、光ファイバを配設可能な中空パイプではあるが、発明の詳細な説明及び技術常識に基づけば、光ファイバを追加することを予定して用いられる「光ファイバ用中空パイプ」、またはスペーサとして用いられる「光ファイバ用中空パイプ」という機能を有するものと解釈される。

そして、ケーブル線路は、ケーブル自体を保護部材内に収納し、支持部材で布設されるものであるから、光ファイバを追加しようとすると、ケーブル全体を取り替える工事が必要となり、その工事の負担が大きいという技術的な問題を有するが、この技術的課題を踏まえると、本願発明の特許請求の範囲における「・・・光ファイバ用中空パイプが、内部に何も挿入されていない状態で布設されている・・・ケーブル線路」なる構成には、光ファイバ用中空パイプを具備するケーブル線路において、内部に何も挿入されていない光ファイバ用中空パイプを布設しておき、必要に応じて、「空」の光ファイバ用中空パイプに光ファイバを追加、挿入することができるようになっているので、光ファイバの布設工事の負担を軽減できるという技術的意義を見出すことができる。

上記のとおり、本願発明の技術思想を捕らえた上で、本願発明と第1引用例記載のものとを比較すると、第1引用例記載のものは、「光ファイバ用中空パイプ」であって、また、スペーサとしての機能も有するものの、布設後に、光ファイバを追加することを予定しているか否かは明示されてなく、両者は、一見、構成上同じに見えるが、その機能が相違するところから、審決では、その機能、目的を捕らえて相違点として挙げたものである。しかして、本願発明と第1引用例記載のものとの相違点は、ケーブル線路において、その光ファイバ用中空パイプが「空」であることの目的を含む技術思想の違いであるから、その容易性の判断の根拠としては、本願の出願時、当業者において、光ケーブル布設後、必要に応じて、光ファイバを付加したり、取り替えたりする課題、技術が存在していたことを立証するための第2引用例(甲第6号証)及び第3引用例(甲第7号証)を示すだけで十分であり、審決の容易性の判断に誤りはない。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本願発明の要旨)、3(審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

2  本願発明の概要

甲第4号証(本願明細書)によれば、本願発明は、「最初はケーブルのみを布設しておき、後で必要になったときには、容易に光ファイバを追加できるケーブル線路の提供を目的」(1頁16行、17行)として、前示要旨のとおりの構成を採用したものであり、「光ファイバを必要なときのみに布設することが可能なので、経済的であり、またその布設工事も簡単である。」(2頁11行、12行)という効果を奏するものであることが認められる。

3  取消事由に対する判断

(1)〈1〉  甲第5号証によれば、第1引用例の特許請求の範囲第1項には、「ゴムあるいはプラスチック物質からなる複数の個別のチューブを備えてなる光学ケーブルであって、これらチューブのいくつか、あるいはすべてのそれぞれに、少なくとも1つの光学束ならびに/あるいは、少なくとも1つの個別の光学ファイバがゆるく収納され、各光学束ならびに/あるいは個別の光学ファイバが、上記のチューブに対して横方向ならびに縦方向に動き自在であり、これらチューブは、中央の長手な強化部材のまわりに、少なくとも1つの層にヘリカルに並べられ、そして上記チューブのアセンブリイを取り囲む外側の保護シースを備えるものにおいて、上記チューブ(2、15)の層あるいは層群が、上記の中央の長手な強化部材(1、11)に締め付けられて、上記チューブと強化部材との間の長さ方向の相対移動が、ほぼ防止されると共に、上記中央の強化部材が、軸方向の圧縮に対して高い抵抗を有する物質ならびに断面積であることを特徴とした光学ケーブル。」と記載され、発明の詳細な説明には、「ゴムあるいはプラスチック物質からなる複数のチューブと、このチューブのいくつかは、少なくとも1の先に定義された光学束、ならびに/あるいは少なくとも1の独立の光学ファイバをゆるく収納し、チューブは中央の長手な強化部材まわりに1以上の層でヘリカルに並べられる」(甲第5号証3頁左上欄18行ないし右上欄3行)と記載されていること、第1引用例記載の発明の実施例として、別紙図面2の第1図、第2図に記載のとおりのものが示されていること、そして、発明の詳細な説明には、第1図について、「光学ケーブルの第1の形式は、中央のスチールワイア1、このまわりにはポリエチレンからなってヘリカル状に撚られる6つのチューブ2、これらチューブはヘリカル状にまかれる結束用のテープ3によって、中央のワイアにきつく縛られ、チューブと中央ワイアとの間の長さ方向の相対移動が、ほぼ防止される。各チューブ2の中には、スチールテープ4がゆるく収納され、このテープの一面には、2つの光学ファイバ5が接着されている。」(同5頁左上欄13行ないし右上欄2行)と記載され、第2図について、「第2図に示される光学チューブの第2の形式の場合、4つのプラスチックチューブ15ならびに4つのプラスチックで絶縁され電気導体18が、中央の強化部材11のまわりにヘリカル状に撚られて、チューブならびに絶縁された導体は互いに互い違いになり、そしてヘリカル状に巻かれるプラスチックテープ17によって中央の強化部材にきつく縛られ、チューブと強化部材との間の長さ方向の相対移動が、ほぼ防止される。・・・2つのチューブ15のそれぞれにゆるく収納されるのは、単一の光学ファイバ16で、このファイバはエナメル、あるいは他の保護物質からなる外側の被ふく(図示省略)をもつ。」(同5頁右上欄6行ないし左下欄2行)と記載されていることが認められる(なお、第1引用例の第2図に、複数の「プラスチックチューブ15」と複数のプラスチックで絶縁された「電気導体18」とが、中央の「強化部材11」の周りにヘリカル状に撚られてなる「光ケーブル」が記載されていることは当事者間に争いがない。)。

上記各記載によれば、第1引用例記載の光学ケーブルにおいては、配設されているチューブのすべてに光学束なり光学ファイバが収納される場合と、配設されているチューブの一部に光学束なり光学ファイバが収納される場合の2つの場合があるものと認められる。そして、第1引用例の第1図に示される光学ケーブルにおいては、配設されている6つのチューブすべてに光学ファイバが収納されているのに対し、第2図には、4つのプラスチックチューブ15のうちの2つのチューブに光学ファイバが収納されているものが示され、その説明において、「2つのチューブ15のそれぞれにゆるく収納されるのは、単一の光学ファイバ16で、」とのみ記載され、残りの2つの光学ファイバが収納されていないプラスチックチューブについては、その用途を含め何ら記載されていないことが認められる。

以上によれば、第1引用例の第2図記載の光学ケーブルは、配設されているチューブの一部に光学束なり光学ファイバが収納される場合に該当するものと認めるのが相当であり、光学ファイバが収納されていない2つのプラスチックチューブ15は、光学ファイバの収納が予定されているものとして、すなわち、光学ファイバ用のものとして配設されているものと断定することはできない(もっとも、上記第2図のプラスチックチューブ15において、光学ファイバが収納されているものと、収納されていないものとでその形状に何ら差異はなく、第2図についての上記説明に照らしても、光学ファイバが収納されていないものも、光学ファイバを収納しうるものであると認められる。)。

そうとすると、第1引用例の内部に何も挿入されていない状態のプラスチックチューブ15(中空パイプ)について、「光ファイバ用」のものであるとし、その点についても本願発明との一致点であるとした審決の認定は誤っているものといわざるを得ない。

なお、本願発明の「ケーブル線路」が第1引用例の「光ケーブル」を包摂することは当事者間に争いがなく、第1引用例の「電気導体18」、「ヘリカル状に」は、本願発明の「ケーブルコア」、「スパイラル状」にそれぞれ相当するものであり、第1引用例の第2図によれば、「プラスチックチューブ15」は「電気導体18」の外側の撚合わせ間隙にヘリカル状に設けられているものと認められるから、本願発明と第1引用例記載のものとは、「ケーブルコアの外側の撚合わせ間隙にスパイラル状に、中空パイプが、内部に何も挿入されていない状態であることを特徴とするケーブル線路」である点で一致しており、その限りにおいては、審決の一致点の認定に誤りはない。

〈2〉  ところで、審決が、「光ファイバ用中空パイプを、内部に何も挿入されていない状態、すなわち「空」の状態にしておくことの目的は、本願発明では、布設後の光ファイバの追加や取り替えに備えておくためであるのに対して、第1引用例では、その点が記載されていない点」を本願発明と第1引用例記載の発明との相違点として認定した上、「光ケーブル技術分野において、布設後の光ファイバの付加や取り替えに備えて、着脱可能に、光ファイバ用中空パイプに光ケーブルを挿入する技術は第2引用例、第3引用例に記載の如く本件出願前周知であったと認められるので、第1引用例記載の「光ケーブル」において、光ファイバが挿通自在で「空」の状態の「プラスチックチューブ15」を、布設後に光ケーブルが必要になったときに備えるためのものとして布設しておくことは当業者が容易に想到できたものと認められる。」と判断していることに照らすと、審決は、第1引用例の、内部に何も挿入されていない状態、すなわち「空」の状態にある「プラスチックチューブ15」について、上記状態にある目的が明確でないことを前提として、布設後に必要に応じて光ケーブルを挿入するためのものとして用いること、すなわち「光ファイバ用」として用いることの想到容易性についても判断しているものと認められるから、上記〈1〉の一致点の認定の誤り自体は、審決の結論に影響を及ぼすべき事項であるとは認められない。

(2)  そこで進んで、審決の上記判断の当否について検討する。

第2引用例及び第3引用例に審決認定の各事項が記載されており、上記各引用例には、要するに、光ケーブルの技術分野において、布設後の故障に対応するために、光ファイバの付加や取り替えに備えて、着脱自在に、光ファイバ用中空パイプに光ケーブルを挿入する技術が記載されていることは、当事者間に争いがない。

そうすると、第1引用例記載の「光ケーブル」において、同引用例の第2図に記載されている内部に何も挿入されていない状態の「プラスチックチューブ15」について、甲第2号証及び甲第3号証に記載の上記技術を適用して、布設後に光ケーブルが必要になったときに備えるためのものとして布設しておくことは、当業者が容易に想到できる程度のことと認められ、審決の上記判断に誤りはないものというべきである。

(3)  原告は、審決は、(イ)本願発明は、導電性の多数のケーブルコアを同心円上に配置して互いにスパイラル状に撚り合わせた導電ケーブル線路であるのに対して、第1引用例記載のものは、導電性のケーブルコアと光ファイバチューブとスペーサチューブとを同心円上に密に配置し、これらを互いにスパイラル状に撚り合わせた複合ケーブルである点、及び、(ロ)本願発明は、同心円上に配置され、互いにスパイラル状に撚り合わせた多数の導電性ケーブルコアの外方の撚合わせ間隙に、「光ファイバ用中空パイプ」であって、かつケーブルを布設した状態でも依然として空のままであるパイプを、スパイラル状に上記ケーブルコアに撚り合わされたものである点を看過している旨、第1引用例の第2図に図示された、光ファイバを内装していない2本のプラスチックチューブ15は、本願発明の光ファイバ用中空パイプとその技術的意義を異にすることは明らかである旨、本願発明の「ケーブル線路」はいわゆる導電ケーブルであり、複合ケーブルではないから、第1引用例の導電ケーブルと光ケーブルとからなる複合ケーブルとは全く異なるものである旨、第2引用例、第3引用例に記載された事項は、上記各相違点とは全く別異の事項であるから、第2引用例、第3引用例に審決認定の事項が記載されているとしても、これをもって、上記各相違点に係る本願発明の構成につき、当業者において容易に想到できたものとすることはできない旨主張する。

しかし、本願発明のケーブル線路も光ファイバ用中空パイプを含むものであるから、第1引用例の光ケーブルと格別相違するところはない。本願発明と第1引用例記載のものとが、「ケーブルコアの外側の撚合わせ間隙にスパイラル状に、中空パイプが、内部に何も挿入されていない状態であることを特徴とするケーブル線路」である点で一致することは上記(1)〈1〉に認定のとおりであって、第1引用例の中空パイプが「光ファイバ用」であるとした点を除いて、審決に相違点の看過はない。

したがって、原告主張の相違点があることを前提として、第2、第3引用例記載の技術の適用困難性をいう原告の主張は失当である。

また、本願発明の光ファイバ用中空パイプは、布設後の光ファイバを追加や取り替えのために備えておくものであるのに対し、第1引用例の第2図に図示された、内部に何も挿入されていないプラスチックチューブ15は「光ファイバ用」のものと断定することはできないが、審決は、このプラスチックチューブ15について、布設後に光ケーブルが必要になったときに備えるためのものとして布設しておくことは、当業者が容易に想到できる程度のことと認められる旨判断をしており、その判断に誤りのないことは前記説示のとおりである。

したがって、原告の上記主張は採用できない。

(4)  以上のとおりであって、本願発明は、第1引用例記載の発明に第2、第3引用例記載の技術を適用して、当業者が容易に発明をすることができたものであるとした審決の判断に誤りはなく、原告主張の取消事由は理由がない。

4  よって、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)

別紙図面1

〈省略〉

別紙図面2

〈省略〉

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